Little Busters! Short story

The intruder against five Busters Part-1

Prologue A feeling of wrongness

「…うーん、ふわぁあ…?」
カーテンの隙間から漏れてくる朝日を浴びて目覚めた小毬、大きく伸びをした瞬間、なにやら奇妙な違和感を感じる。
「…あれ?」
「おはようございます、神北さん。どうかいたしまして?」
「あ、さーちゃんおはよ…えっと…うん、なんでもないよ〜。」
「ならよろしいですが…そろそろ起きないと遅刻ですわよ、2年生になってしばらく経っているのですから、そろそろ新生活にもお慣れ遊ばせ。」
既に身支度を整えていたルールメイトの佐々美とそのようなやり取りをした後、
「それでは、私は朝練習がありますのでお先させていただきますわ、神北さんもお早めに着替えなさったほうがよろしくてよ。」
「うん、そうするよ。あ、りんちゃんに会ったら先に食べててって言っといて。」
部屋から出て行こうとする佐々美に、そう声をかけると、佐々美は怪訝そうな表情で振り向き、
「…りんちゃん…?神北さんの新しいお友達ですの?」
「…え?」
まったく予想外の反応に、一瞬唖然とする小毬。佐々美もその名前を探るように一瞬動きを止めたが、
「…っと、遅れますわね。…どなたかは存じませんが、もしそれらしき方とお会いしましたら伝えておくとしますわ、それではごきげんよう。」
身を翻して、廊下へと出て行く。後に残された小毬は、
「…え?何で…?」
状況が理解できず、そう呟いたまましばらく呆然としていた。

Chapter 1 14th May

「なるほど、それは奇妙なことだが…実は私も思い当たることがある。」
寮の食堂。小毬ほか、唯湖、クドリャフカ、美魚が向かい合って朝食を摂っているとき、小毬が思い切って今朝の違和感を皆に話したところ、なぜか三人も納得したような様子。
「ゆいちゃんも?」
「だからその呼び方は…まあいい、実はこんなラブレターを貰った。」
「ラブレターですか?脅迫状にしか見えませんが。」
「わふー…勝沢さんからですね…。」
「はっはっは、内容にそう差はあるまい。あの時本気で怒鳴ってからは、むしろ向こうから避けるようになってくれて面倒がなくなったと思っていたのだが…。」
と、なんてこともないように笑う唯湖と、苦笑する他の三人。そうしていると、突然クドリャフカが、
「あ、そういえば私も、気付いたら一人で寝ていました。佳奈多さんは委員会だから早出したのだと思いましたが、ベッドに誰か寝ている形跡がなかったんですよね…?」
「そういえば、私も8月に購入したはずの蔵書がごっそりなくなっていました…せっかく知人に頼み込んで買ってきていただいた本ですのに…。」
お互いに違和感を感じる状態だと知った一堂、食卓で頭を捻る。そうしているうちに、がらっ、とドアが開いて、顔を出したのは葉留佳。
「あ、はるちゃんおはよー、どうしたの、怖い顔して。」
「…あ、おはよー。うむむ、お姉ちゃんなんかいやなことでもあったのかな?」
「二木さんが…?」
珍しく仏頂面の葉留佳。美魚の問いにも無言で彼女の隣の席に陣取ると、初めて口を開く。
「なんかちょっと前のフタキカナタに戻ったような感じでね、“G(okutsubushi)、R(okudenashi)、でもってY(akutatazu)”なんて久々に言われちゃったから、はるちんとしてもカチンとしてしまいましたよ。」
とは言っても、以前のように憎悪に歪んだ顔ではなく、どちらかというと戸惑いつつ苦笑している様子を見て取った小毬、くすりと笑って。
「そうだよねー、せっかく仲直りしたってのにそれではつまらないよねー。」
「まったくだな。…そういえば、もうひとつの違和感に今気付いたぞ。」
小毬の発言を受けた唯湖、突然まじめな顔をして皆に振ると、皆既に気がついているように、
「…直枝さん達がいない、ということですね。」
「さーちゃんも、りんちゃんのこと知らないって…。」
「井ノ原さんも、宮沢さんも姿を見せませんですっ。」
「棗センパイたちがいたらいやでも騒ぎになるもんね、それに…ほら。」
『!』
葉留佳が指差した先を見て、一同は驚愕すると同時に事態を理解する。彼女の指先は、カレンダーのある日付を示していた。その日付は、

5月14日

Chapter 2 The starting of new bloods of Little Busters

「やっぱり、理樹君たちは“いなくなった”んじゃなくて、“いないことになっている”みたいだね。」
放課後、元・野球部の部室が施錠されていたので、寮の談話室に集まる小毬たち5人。あれから一日過ごしてみたが、理樹たちリトルバスターズのことを知っている者は、現在のメンバーであるこの5人だけのようだった。
「だよね、本来だったら昨日、棗センパイが就職活動帰ってきて、真人ちんと謙吾ちんの喧嘩をランキングバトルにすりかえるってことがあった筈だもん。」
「わふー、じゃぱにーずみすてりーです…。」
「能美さん、使い方が違うとおもいますが…それより、いったい何が起きているんでしょうか…?」
「さすがに私としても理解の外だ…またぞろ恭介氏の悪ふざけとも考えたのだが、これは彼の思惑とは逆の方に行っているような気がするんだ。」
唯湖の分析に、皆異議なしとばかりに頷く。ふと、クドリャフカが小毬に尋ねる。
「そういえば小毬さん、あのノートはどうなっているですか?」
「ああ、あの絵本?どれどれ…。」
そう言うと、自分のバッグから一冊の大学ノートを取り出す。そこに書かれていたのは、森に迷い込んだ男の子と女の子が、8人の小人が抱えた問題を一緒に解決しようと力を貸していくうちに、いつしか森からの出口を見つけるほど賢く強くなっていくという話。
「…でも、最後はその二人は、小人と一緒がいいと、森に閉じ込められていた小人とも一緒に森から脱出するのでしたね。」
美魚に言われるまでもない、理樹と鈴と、他のリトルバスターズとのエピソードを投影した一冊。
「…そうそう、よく覚えてるね…うん、これは消えてないよ、最後まで残ってる…あれ?これ続き書いたかな?」
最後のページのさらにその次に、なにやら書き込んだ様子があることに気付いた小毬。他の4人も覗き込んだ状態でページをめくると、5人が一斉に息を呑んだ。

“ところがあるひ、まおうがやってきておとこのことおんなのこと、むかしからふたりとなかがよかったこびとをつかまえてしまい、ほかのこびとのこころのなかにとじこめてしまったのです。”

『………。』
わずか二行の文章と、その下に描かれたそれぞれ牢屋に閉じ込められた5人の挿絵を唖然として眺めていた5人だったが、
「ふふっ、これはなかなか洒落た宣戦布告ではないか。」
唯湖が不敵に微笑むと、それを受けて小毬も、
「そうだね〜、少なくともこれで理樹君たちがどうなってるかはわかったし。」
「でもでも?」
ふと、葉留佳が口を挟み、
「私たちの心の中に閉じ込めた、ってどーゆーことっすかね?」
それにはクドリャフカが答えて、
「たぶんですが、私たちがこの前リキ達と一緒に解決した心残り、そのことだと思いますですっ。」
「そうなると、またそれぞれ解決しなおす必要がありますね、しかも今度は直枝さん抜きで。」
『むー…。』
それについては、恭介がそう設定したとはいえ、理樹の助力が各自の心残りからの開放に大きなウェイトを持っていた以上、理樹の不在という事実は予想外に深刻に感じられる。その時、
「ふふ〜、いいこと思いついちゃった〜。」
小毬が楽しそうにそう言うと、ノートを高く掲げる。その瞬間、
『!』
ノートから発せられた閃光に、一同の目が眩む。そして気がつくと、テーブルの上に5冊のノートが置かれていた。
「なるほど、本人ではシナリオに飲み込まれてしまう危険があるので、それぞれ他の人のを担当するというわけですか。」
「そっかー、確かに、他の人のなら結構客観的に見えるからねー。」
「これぞ、岡目八目なのですっ、わふーっ!」
「なるほど、これはなかなか面白いことになりそうだな。」
「でもね。」
小毬の意図を理解してはしゃぐ4人に、小毬が釘を刺すように話す。
「他人のなら理解しやすいとはいえ、油断はしないでね。私達のお話はそれ自体重大なものを抱えてるんだから、ね?」
「承知しました。」
「了解ですヨ!」
「わふーっ!」
「もとよりそのつもりだぞ。」
「よーし!それでは皆ノートを取って頂戴!」
皆の自覚を確認した小毬がそう促すと、一同はほぼ同時にノートに手を伸ばす。
「…『罪なき贖罪』…なるほど、私の担当は能美さんのお話ですね。」
「がんばってくださいっ、私は…『夢に捨てられた欠片』…小毬さんですっ!」
「クーちゃんが私かあ、それでは…『風花舞う6月に』、ゆいちゃんの話だねっ。難解だけどがんばるよゆいちゃん!」
「…おねーさん、ツッコむのも疲れたよ…『合わせ鏡の愛憎』なるほど、葉留佳君か。」
「ふぁいとっすよ姉御、というわけで最後は『とこしえなりし青と蒼』みおっちは私が引き受けた!」
皆が自分の担当する話を決めたことを確認した小毬、それではとばかりにすっくと立ち上がると、
「恭介さんがいないから今回は私が仕切るね、それじゃ皆、ミッション・スタートだよ!」
と、右手を掲げて、ミッションの始まりを告げた。


Chapter 3 Exterminating their uncleanness


カツン、カツン、カツン――――――!
崩れかかったコンクリートの通路に、いくつもの足音が響き渡る。一方は軽い1人の、もう片方はそれより重い大勢のもので、大勢の足音からは時折怒号のような叫びも混じっている。
「………あの方々も、切羽詰ってますね…。」
そうつぶやきながら1人逃げ続けているのは、ケープと一体化した純白のマントを纏い、ともすれば後ろへ吹き飛ばされそうな同色の帽子を右手で押さえた小柄な少女―――能美クドリャフカ。後方から激しく放たれる殺気を受けながら、つい数日前までは国立飛行場だった廃墟の通路を走り抜ける。
『いたぞ!ストルガツカヤの娘だ!』
『捕らえろ!傷一つつけるんじゃないぞ、穢れていては捧げものにはならん!』
「…やれやれ、随分と物騒なことを…。…そろそろ潮時でしょうか?」
長い直線の通路に差し掛かった彼女。ちらりと肩越しに後ろを向き、追跡者との距離と数を計る。そしてスピードを緩めて、ある程度距離が縮まったところで、
「…止まりなさい!」
『!?』
突如、回れ右をして、追跡者を押しとどめるように両手を突き出しつつ叫ぶ。ターゲットとはいえ突然の予想外の行動に、思わず彼らの足も止まる。
「…何もわからぬまま追い回されるのも飽きました。一体私に何用なのか、そろそろ教えていただけないでしょうか?」
その言葉を聞いた追跡者。しばしひそひそと顔を突き合わせて囁きあったかと思うと、先頭に立っていた青年が、
「…まあいいだろう…しかし、その前に一つ聞きたい。」
「なんでしょう?」
「お前本当にストルガツカヤ博士の娘か?」
青年の問いに、怪訝そうな表情を浮かべる彼女、答えて言うには、
「…それは、どういうことでしょうか?」
「…いや、博士の話と随分違ってるな…とか思ってな…。」
「母とはしばらく会っていませんから、イメージにギャップが生じているのでは?」
「…そ、そういうものか…?」
なんとなく釈然としない風情で考え込む青年。その様子にいささか苛立った体の彼女が、
「それで、私の問いですが…。」
そういわれて、青年はようやく本筋を思い出したのか、居住まいを正して、
「…あ、ああ。…見てのとおり、お前の母親…ストルガツカヤ博士が原因でこの国に穢れが広がっている。ストルガツカヤの撒いた穢れを清められるのは唯一、ストルガツカヤの縁者だけということだ。」
「なるほど…合点がいきました。…そして、それは残念…。」
「…? それはどういう…?」
青年の問いに彼女は答えず、髪を一房束ねているコウモリを象った髪留めに手をやり、ぷちん、と音を立てて外した。その瞬間、
『!?』
「私はハズレ。」
声と同時に、クドリャフカの体全体が煙に包まれる。数瞬ののち煙が晴れ、その中から出てきたのは、クドリャフカより頭半分は長身の、青みがかったショートカットの髪の少女となる。
「…い…一体!?」
「…NYPディスガイザー…鈴木さんにしてはよい仕事です…。」
青年の誰何の声をとりあえず無視し、先ほどまでコウモリの髪留めだったブローチ状の装置を、ネクタイピンのように自身のタイに留める。そして改めて追跡者たちの方へ向き直り、
「それでは改めまして。私はリトルバスターズ第10席こと、西園美魚。そして能美さん…能美クドリャフカは私の親友…いえ、」
そこで言葉を切り、鋭い視線で相手を見据える。整った顔立ちではあるが強面とは無縁な彼女の視線といえども…否、そんな容貌の彼女だからこそ、心情がダイレクトに表れたような視線に、追跡者も思わず一歩後ずさってしまう。その表情のまま美魚は、
「…“仲間”です…!」
そう言うと、ポケットを探り、中から一丁の銃…というには銃口がやたら大きい何かを取り出し、追跡者へと銃口を向ける。
「…聞いていれば能美さんを愚弄する発言の数々…というよりなんたるチキンでしょうか、シャトルに事故が起こったのは確かに不幸な出来事ですが、それだけでここまで国民の皆さんが動揺するとは…。」
言いつつ、手に持った銃に自らが宿す、NYP――何だかよくわからないパワー――としか言い表せない未知のエネルギーを充填していく。
「…これでは配慮は不要でしょう…私は能美さんほどは優しくなれませんので悪しからず、残らず吹き飛んでいただきましょう…!」
既に銃口から閃光が走るほどのエネルギーが込められた銃を両手で構え、引き金に指をかけ―――
「!」
突然、美魚の表情が歪んだかと思うと、打ちかけたその銃を天井に投げつける。天井に激突した銃が爆発し、天井の表面を削り取り大量の破片と埃を撒き散らす。埃に巻き込まれしばらくパニックに陥っていた追跡者が気づいたときには、美魚の姿は消えていることに気づきしばし呆然とするが、
「…お、追え!」
誰かがそう叫んだのを皮切りに、ようやく自分たちのすべきことを思い出したのか、美魚が逃げていったと思しき通路の向こうへと走り出した。

「……まったく、ついてないというべきか誰かの陰謀なのか…。」
そう毒づきながら先ほどと同じように通路を駆ける美魚。武器どころか、それに込めたNYPまで丸々浪費してしまい、先ほどと比べて明らかにスピードも出ていない。
「…全く、こんなときに出てこなくてもいいでしょうに…!」
あの時、そのまま発射していれば追跡者たちを揃って吹き飛ばせたはずの銃を反射的に捨ててしまったことは予想外に痛かった。そしてそのとき視界に飛び込んできたあの人物にさらに毒づく。
「…これは貸し1ですね…戻ったら一週間制服着用の刑に服していただきましょうか…宮沢さん。」
そう、なぜか追跡者の一行の中にいた謙吾に対しそう呟き、通路をひたすら前へと駆け続けていた美魚。しばらく進んだと思ったそのとき、
「!」
突然目の前から道が消えたのであわてて立ち止まる美魚。みると通路が丸々崩れており、そっと下を見ると高さにして建物一階分ほど下には、大き目の地下水路が流れている。ある程度深いのか、澄んだ水は音も立てずに流れている。しばしその光景を唖然と眺めていた美魚、すぐ後方で足音が立ち止まったのが聞こえて振り返ると、もう美魚から数メートルの距離まで追いつき、遠巻きに美魚を取り巻いた追跡者達が、絶壁のほうへと美魚を封じ込めるようにじわじわとその輪を狭めてきた。
「これは…少々まずいですね…。」
じり、じりと縁まで追いやられる美魚。なんとか隙を見つけられないかと視線をめぐらせたその時、がらっ、という音を立てて美魚の足元が崩れる。
「きゃ…!」
短い悲鳴を残し、バランスを失い大きく後方へとのけぞる美魚。そのまま下へと真っ逆さま――――と思った瞬間、大きな影が勢いよく落ちかけている美魚へと突進していった。

(………?)
謙吾は、自分がなぜここにいるのか理解していなかった。いや、それを考えることすら出来ていなかった。ただなんとなく皆に合わせるように、目の前の少女を追いかけていた。自分が背中を追いかけているその少女はどこかであった事があるとは感じたものの、周囲から少女に発せられる敵意に流されるまま、獲物として彼女を追いかけていた。
(…たしか…?奴は…?)
それが、彼女がらしからぬ啖呵を切ったことに加え、外見まで変化するという現象を見せ付けられ、それが刺激となったのか頭の中でその少女がだんだんと組みあがっていく。そして、彼女が足場を崩して落下しかけた瞬間、そうするのが当然とばかりに彼女に突進し、もろともに落ちて落下の衝撃から彼女を護ろうとしたその時、その名前――最も信頼できる仲間の1人の名前が湧き上がってきた。
「西園おおおおおおおおっ!!」
絶叫しつつ落下しかけた美魚にしがみつくと、そのまま彼女の体をくるみ込んでそのまま落下していった。

「――!?」
落下しかけた自分の体にしがみついた男が、自分の名前を絶叫したことに美魚が驚愕する。
(――――宮沢さん、思い出した?)
その答えを導く間もなく、美魚と謙吾を強烈が衝撃が襲った。
「…っ…。」
謙吾がクッションになってくれたとはいえ、それでも落下のダメージは決して小さくない。朦朧とする意識を頭を振って明瞭にさせる。
「宮沢さんは…よかった、大事ないようです。」
気絶しているものの、呼吸や心拍数も調べた上で大丈夫と結論付けた美魚。ひとまず平らなところに謙吾を引っ張って寝かせたその瞬間、
―――――ヒュン!
風を切る音とともに、何かが美魚の耳元を掠めて飛んでいった。
「…!」
これには一瞬驚きの余り硬直した美魚だったが、気を取り直してそれが飛んできた方向に振り向き、
「…お久しぶりですね、古式さん。まさかこんなところにいらっしゃるとは思いませんでしたよ。」
と話しかけると、返事が返ってきた。
「西園さんこそ、奇遇ですね。…ええ、どうやらまた死に損なってしまったようです。」
「…なるほど、しかし、片目でもここまで正確に撃てるのなら、死ぬ必要などないのでは?」
通路の奥から現れたその少女―――古式みゆきはそれを聞くとくすり、と笑う。
「…何かおかしいこと申しましたか?」
怪訝そうに訊き返す美魚に、みゆきはさらにおかしそうに微笑み、
「いえ、西園さんほどの聡明な方がそのような見込み違いをなさるとは…言っておきますが、もし私の両目が見えていたなら、今の一射はあなたの眉間に大穴を開けている筈ですよ。」
「…む…。」
思わず、自分の額を手で押さえる美魚。内心冷や汗をかいたもののなんとか動揺を隠して、
「…それは失礼いたしました。しかして、古式さんは何用でしょうか、まさかこんなところで腕前を披露というわけでもないでしょうし。」
「ええ、ひょんなことからさる方に協力することとなりまして、どうやらあなた方とは敵に回りそうなんです、なので今回はご挨拶だけいたします。」
そういうと、みゆきは現れたときと同様、通路の奥の闇に消えてしまう。入れ違いに奥から聞こえてきたのは、先ほども聞いたような大勢の足音。
「…もう来ましたか…参りましたね、武器もなくなってますし…仕方ありません、奥の手です。」
そう一人ごちると、何を思ったかポケットを探ると、一本の油性マジックを取り出した。

「よ…ようやく見つけたぞ…。」
息を切らせながら現れた追跡者一向。よほどここまで来るのに手間がかかったのか、一同域を切らしている。
「お疲れ様といいたいところですが…一体ストルガツカヤの縁者でもない私にこの上何の用ですか?」
いささかうんざりした口調で美魚が問いかけると、先頭の青年が、
「もはや穢れの拡大は急を要する。だからお前でもやむをえまい、多少なりとも穢れを祓う役には立つだろう。」
そう言って、先ほどと同じように包囲の輪を狭めてくる。大して美魚は今度はあわてず、十分引き付けたところで、片袖をぐい、と捲り上げる。その瞬間、
ばちっ!
「わあっ!」「ぐぅっ!」
追跡者から悲鳴が漏れる。袖をめくり上げた美魚の左腕にマジックで描かれた複雑な文様から、火花が散って追跡者たちの目を襲う。
「この国では、体に描かれた文様は重要な意味を持つそうですね。とはいえ、今は詳細な意味は失われつつあるようですが…。実は私、些か勉強したことがありまして、記憶を頼りに描いてみたのですが…ペルーンという神性をご存知でしょうか。」
『…な、何故それを知っている!?』
その名に一同が浮き足出す。美魚はそれを見て満足げに、
「スラブの神話も学ばれているようで感謝いたします。そう、この文様はお宅様の事実上宗主国の主神にして雷神であります。しかし、書き方はお忘れだったようですね…本当、本というものは便利なものです。」
言うが早いが、今度はブラウスに手を掛ける。それを見た追跡者たちは圧殺しても文様を外に晒させまいとするが、
「雷は神鳴とも呼び習わします…穢れを祓うのにこれ以上相応しいものはそうないでしょう…さあ、お望み通り、今ここの穢れをすべて焼き祓って差し上げます…!」
瞬間、ブラウスを脱ぎ捨てすらりとした裸身を晒したと思ったその瞬間、文様から無数の閃光と火花が飛び散り、轟音があたりを満たす。美魚も自身から発生した光に目がくらみ、一瞬何が何だか分からなくなった。

「―――――はっ!?」
ふと意識を取り戻した美魚。思わずあたりを見回すと夕方の談話室。一瞬夢かと思ったが、テーブルの上に乗せられた5冊の冊子が、現実だと主張している。
「…どうやら、私はうまくやれたみたいですね…あ、そういえば宮沢さん…?」
そういいつつ周囲を見ると、窓の外に1人で寮へと向かう胴着姿の謙吾の姿。
「良かった、宮沢さんもこの世界に戻ってきたみたいですね…。」
と、安堵のため息を漏らしたところ、自分の担当した冊子が光を放ったかと思うと、またもとの分割されたノートの一つへと戻る。
「さて、私はうまくいきましたが…古式さんを抱きこむとは、一体何者が我々の敵に回っているのでしょうか…。皆さん、お気をつけて…。」
美魚は今は自分ひとりしかいない談話室で、達成感と不安の入り混じった声でそう呟いた。


Chapter 4 A terrific solution


「ふわへー…。」
気がつくと校庭に佇んでいた小毬が、ため息にも似た声を漏らす。時期的にも梅雨の最中であるに相応しい、僅かな暑気にじっとりまとい付くような湿気。そして、その最中を次々と舞い降りてくる大粒の雪―――この世界に入り込んだ小毬を出迎えたのは、この狂った風景だった。
「ゆいちゃんも、すごいことやっちゃうんだね…。」
あのときのエピソードはすべて記録している小毬。当然唯湖が敢行したこの芸当も知っていたが、実際に自身が身をおいてみるとやはり圧倒される。
「へぇ、凍ってるようで雪も冷たくないんだ…。」
ふわりと舞い降りてくる雪を手で受け、改めて視線を上に向ける。そうして、自らがここにきた目的についてはさて置いて、その夏と冬が同居した風景にしばし見入り―――
「…ほわあぁー!?」
冷たさを感じないせいで、自分にも積もっていくことに気づかなかった小毬、我に返ったときには雪だるま状態になっていることに気づき、慌てて雪を払い落としながら文字通り昇降口に転がり込む。
「あーびっくりした、冷たくないから全然積もってることに気づかなかったよ…。」
まったく冷たくない雪を昇降口で一通り払い落とすと、そっと廊下に上がりこみ様子を伺う小毬。今は授業中らしく、廊下には誰もおらず、教室内からは教師の声や、チョークが黒板にぶつかる音くらいしか聞こえてこない。
「…ううぅ…やっぱり見つかったら怒られるかなあ…?」
どこか場違いな心配をしつつ、気がついたら自分のクラスまで辿り着いている。一瞬、逡巡したのち、
「お、遅れました〜…。」
と、遅刻を装い入ってみるが、
「…そして、ここのXに注目し、一度展開させて外に出してしまうわけだ、そうしてだな…、」
「…あれれ?」
結構大きな音を立ててドアを開けたにもかかわらず、黒板に筆記しつつ話している教師も、それを聞いている生徒も小毬に気づいた様子はない。
「…うーん…。」
唸りつつ、気づかれないのをいいことに教室を一通り見回してみるが、
「…やっぱり、誰もいないや…。」
予想通りとはいえ、リトルバスターズのメンバーがそこだけ欠け落ちて、つくろったようにほかの生徒と差し替わっていることに、いささか落胆して、教室を後にする。そのままふらふらと当てもなく歩き、いつの間にか中庭への昇降口に差し掛かっ
たその時、
「テヅカ、もっとこっちに寄れ、雪かかるじゃないか。ほら、ワーグナーにマーストリヒト、少しはテヅカに場所空けろ。」
「…!」
昇降口から外に張り出した庇の下で、大勢の猫に囲まれた人影を発見し、思わず近くまで駆け寄る小毬。そしてその後姿を確認した瞬間、
「りんちゃん!」
「!?」
小毬がかけた声に、驚いたように振り向いた鈴。一瞬目を皿のようにして驚愕すると、
「…こまりちゃん!」
叫ぶが早いが、はじかれたように立ち上がると、小毬にしがみついてきた。
「…り、りんちゃんどうしたの?」
「………!」
言葉にならない叫びを上げ、まるでそうしていないと小毬が消え去ってしまうかのように、必死で小毬のセーターを握り締めて胸に顔を埋める鈴。
「……りんちゃん……。」
その様子に、小毬も鈴の髪を優しく梳く。しばらくそうしていた後、やや落ち着いた鈴が顔を上げ、小毬に尋ねる。
「…こまりちゃん、ここは一体どこなんだ?気がついたらここにいたんだけど…理樹も恭介も、こまりちゃんたちもいないし…誰もあたしに気づかないし…。」
対して、小毬も困惑したような表情で、
「うーん、確かゆいちゃんの…、」
「なにっ、これはくるがやがやったのか!?」
「ち、ちがうよりんちゃん、実はね…、」
驚愕して立ち上がりかけた鈴を慌てて制した小毬、自分が知ってることを急いで鈴に説明する。
「…なるほど、誰にだか知らないが、あたしはくるがやの話の中に閉じ込められてる、というわけか。」
「うん、でも早速りんちゃん見つけられて良かったよ〜。これであとは脱出するだけだけど…。」
ここまで言って、逡巡する小毬。なにしろ脱出方法を思いつくほどにはこの世界の性質を理解しているわけではない。次の言葉が見つからずしばらく硬直していると、
「…うーんと…でも、あれ?」
「どうしたの、りんちゃん?」
突然何事か考え出した鈴に、小毬が尋ねてみると、
「…おかしいな、くるがやの世界というにはくるがやの姿もみてないぞ。」
「…ほ、ほわっ!?」
まさか唯湖までが姿を見せないということは想定外だった小毬、しばし硬直するがなんとか気を取り直し、
「…そ、それじゃゆいちゃん探しに行こうよ、たぶん見つければ何とかなると思うから…。」
その提案に、鈴はちりん、と髪留めの鈴を鳴らして頷き、
「わかった、それじゃくるがやがいそうなところを探してみよう。お前たち、雪には気をつけるんだぞ。」
『にゃー。』
鈴の発言が分かるのか、猫が一斉に鳴くと、これまた猫の言葉が分かるのか、鈴は満足そうに頷き、改めて小毬へと振り返る。
「よし、それじゃ行こうか、こまりちゃん。」
「え?う、うん!」
校舎内をずんずん歩き出す鈴に、小毬も後をついて歩き出した。

「…ねえ、りんちゃん。」
「ん?」
先に立って、どんどん足を進めていく鈴に、後ろから小毬が声をかける。
「さっきからずんずん歩いてるけど…どこか心当たりあるの?」
「ない。」
「あらら…。」
即時に期待とは違う答えを返された小毬、思わずつんのめって転倒しそうになる。
「…でも、あいつが知ってるって言ってる。」
「あいつ?」
小毬が聞き返しながら、鈴が指差した方を目で追っていくと、そこには小さな黒い姿。
「猫?りんちゃんの?」
「マイルスって名前なんだ。あたしが世話してる中では一番の古株で、下手な新入生より校内のことに詳しいんだぞ…あ、そっちか。」
鈴と小毬が話しているうちにさっさと先に行ってしまうマイルス。向かっている先はどうやら管理棟らしい。
「えっと…この先って…放送室?」
マイルズの先導する先に気づいた小毬がそう呟いた瞬間、
「…え?」
突如スピーカーからメロディが流れ出してきた。
「生演奏だ…レコードやCDじゃないよこれ。」
「…くるがや…。」
「え?」
「これ…くるがやが弾いてるんだ…。」
ふと鈴が漏らした呟きを聞いた小毬、思わず鈴の両肩を掴んで此方へ振り向かせる。
「わっ!?」
「りんちゃん、分かるの?これゆいちゃんが弾いてるって?」
驚いて思わず身構えた鈴だが、小毬の質問を聞くと真剣な表情で、
「うん、なんかあいつの声が一緒に聴こえてくる気がする…。…そうか…。」
ふと、悲しげな表情を浮かべると、
「ここのくるがやは、理樹のことが好きなんだ…そして理樹からも好かれてる。でも…どうしてこんな泣きそうに聴こえるんだ…?」
「それは…、」
真相を知っている小毬が答えを言いかけたが、それを遮るように鈴はきっ、と表情を引き締め、
「くるがやと話そう。あたしたちでも何か力になれるかもしれない。」
「う、うん、そうだね!」
意外な鈴の一言に些か驚愕しつつも、鈴の申し出に嬉しくなった小毬。そうと決まればと、鈴と並んで放送室へと大股に歩き出す。そして、放送室の前までたどり着いた二人、
「くるがや、いるんだろ!?」
「ゆいちゃん、入るよ!」
同時に叫ぶと、ドアノブを捻り防音のための分厚い扉を開け放つ。すると、
「お…?」
「あれ…?」
さまざまな音響機材や楽器が並んでいる放送室内。キーボードから伸びるコードが増幅器に繋がっており、今弾かれている楽器であると証明しているが、演奏者の姿はどこにもない。
「くるがや…どこいった?」
「…それに…いないのに演奏中?」
しばし放送室の入り口で唖然とする二人。すると突然、
「おやおや、演奏時の入室は遠慮して頂こうか。」
聞き覚えのある。しかしどこか違和感のある声が後ろから聞こえて来た。
「…お前は…。」
「ゆいちゃん!?」
「おやどうした、そう驚くような顔でもあるまい。」
いつの間に立っていたのか、ちょうどドアのあたりに立っていたその人物が、二人の様子を面白そうに眺めている。
「くるがや…、…っ!?」
近寄りかけた鈴の足がぴたりと止まり、ちりちりとした悪寒が彼女の首筋を駆け上がる。その様子を不思議そうに見ていた小毬も、何かを感じ取ったらしく、
「…ゆいちゃんじゃないね…誰…なの?」
その言葉を聞いた唯湖の姿をした者は、ふ、とばかりに肩をすくめ、
「おやおや、共に幾多の一学期を潜り抜けた仲にしては冷たいじゃないか、コマリマックス。」
「…?」
その返答は鈴にはちんぷんかんぷんな代物だったが、小毬はそれに過剰なまでに反応した。
「! …まさか、リズちゃん!?」
「その略称はやめてくれ、せめて魔女エリザベートと呼んでくれないか、なあ魔女コマリマックス?」
驚愕の表情のまま一歩後ずさってそう呼びかける小毬に、彼女――エリザベートはくすくすと微笑んでそう返す。
「えりざべーと?こまりまっくす?なんだそれは?」
聞いたこともないような呼称に思わず訊ねるように呟く鈴、それに対し、エリザベートと自称した方が答えて、
「…ああ、鈴君には不親切だったな。でもさて、どこから説明しようか…、」
「もしかして恭介のあの世界と関係あるのか?」
逡巡したエリザベートの発言を遮った鈴の一言に、エリザベートいささか驚嘆した様子で、
「ほう、さすが鈴君、慧眼だな。あの世界を繰り返している中、君と理樹君以外の面々が何か知っているような素振りを見せていた覚えはないか?」
「…あの世界の真実のことか?」
「…ああ、もう真相は明らかなんだな。まあそういうことだ、そしてあの時間を繰り返しているうちに個々の世界ごとにいる来ヶ谷唯湖や神北小毬とは別に、その世界全部を知覚する我々が生み出された、それが私エリザベートであり、小毬君ことコマリマックスというわけさ。」
顎に片手を当て、そう解説するエリザベート。鈴はその答えを聞くと、妙に納得した様子で、
「なるほど、たしかにくるがやとにてるけどちがうな。」
「ほほお、おねーさんとしてはオリジナルである唯湖とは結構似てると自負しているのだがな、どこが違うかね?」
「くるがやは、そんな嫌味な笑い方はしないぞ。」
鈴の指摘に、エリザベートは一瞬言葉に詰まった後、愉快そうに笑い、
「ふふっ、なるほど。全く鈴君は鋭いな、そういうところも可愛かったりするのだが…、」
そこで発言を切ると、左手に携えた模造刀をすらり、と抜き放つ。
「!」
反射的に小毬を庇うようにエリザベートの前に立ちはだかる鈴。その様子にエリザベートは苦笑し、
「待て待て落ち着け、別に今君たちとやりあう気はないぞ。」
「それだけ殺気を放ってて言うのか?」
既にファイティングポーズを取りながら、鈴がそう詰問する。
「まあ、殺気については勘弁してくれ。確かに立場としては君たちの敵に回ってるしな…でも今はその積りではない…とりあえずあちらを見てみたまえ。」
そういわれて、小毬と鈴が切っ先が突きつけられた方角を目で追っていくと、壁に掛けられた大き目の鏡が目に入る。
「…鏡…?かがみがどうかしたのか?」
「あれ…だれか写ってる…? え!?りんちゃん、この子って…!」
「くるがや!」
鏡を覗き込んだ二人は、目の前に映っているはずの自分たちの姿がなく、その代わりに椅子に座ってキーボードを演奏する長髪の少女を認める。少し俯いた格好で鍵盤に指を滑らせる彼女の表情は、垂れた前髪に隠れて伺い知ることは出来ない。
「…な、なんであっちにゆいちゃんがいてこっちには…?」
「…こまりちゃん、たぶんここは…。」
「ふむ、おそらく鈴君の考えているとおりだな。」
何かを感づいた鈴が小毬にそう言いかけたとき、後ろからの声に遮られる。
「…む?」
「ここは言ってみれば牢獄だな。向こうは来ヶ谷唯湖が自ら閉じ込められる、そしてこちらは彼女がこの世界を続けるための妨げとなる要素が閉じ込められる…私や、君たちのようにな。」
「おまえ、べつに閉じ込められていないだろ。」
「いやいやそうではない。私は向こうの唯湖には一切の干渉が許されていない。ただここから眺めているだけだったら閉じこめられてるも同然ではないか。」
肩をすくめて、ため息のように呟く。
「じゃあ、ここでなにしてるんだ?」
「まあ、さしあたっては君らにご挨拶といったところだ。立場上は敵だが、戦うにはこちらにもそれなりの準備というものがあるからな。では、また会うこともあろう、ひとまず失礼するよ、世界を書き綴る魔女に、惨劇へ至る運命の袋小路を切り開いた気高き獅子の仔よ。」
その言葉と同時に、廊下の陰に溶け込んでいくエリザベート、
「…ま、待て!」
鈴が追おうとするも、追いついたと思った時にはそこには校舎の柱による陰があるだけだった。

「すまん、逃げられた。」
放送室内に戻ってきた鈴が小毬に謝ると、
「別にいいよ〜、リズちゃんはまた来るって言ってるし。…でも、」
笑顔で答えていた小毬が、ふと表情に陰を落とし、
「…いきなり魔女だなんて話が出て…びっくりした?」
瞳に多少の怯えを湛えて鈴に訊ねる。その言葉にしばらくきょとんとしていた鈴だったが、
「…えーと、」
頭の中で言葉を選びつつ、ゆっくりと答える。
「…あのえりざべーと、って奴はくるがやと似てたけど、感じはぜんぜん別の奴だった、でもこまりちゃんはこまりちゃんで、こまりまっくすって言われてもあたしには区別がつかない。だから魔女でもこまりちゃんだから問題ない。」
小毬の頭脳でも理解に一瞬の時を要する鈴の返答だったが、その意味を理解した小毬、
「えへへ、ありがとね〜。」
にこにこしつつ、鈴の頭をなでる。
「? ? ?」
その反応に戸惑った鈴に、さらに気を良くする小毬、しばらくなで続けていたが、ふと思い出したように、
「…そだ!とりあえずゆいちゃんだよ。多分、りんちゃんの言うとおり、この世界のゆいちゃんと理樹くんは両思いなんだよ、でもそれが叶ってしまうと世界が終わっちゃうから、ゆいちゃんは無理やり世界が終わらないようにしてるんだよ…せっかく思いが叶ったのにすぐ終わりなんて嫌だって…。」
「…それで、真夏に雪が降ったり、カレンダーが20日から進まないのか?」
「うん、それにゆいちゃんも、毎日毎日、好きな人なはずの理樹くんのこと忘れてる。忘れるほうも忘れられるほうもたまんないよね…。」
「…うーん…。」
沈んだ声で説明を受け、唸りながら考え込む鈴。しばらくそうしていた彼女、突然顔を上げる。
「ど、どうしたのりんちゃん?」
「くるがやと理樹、くっつけよう。」
「ふぇえ!?」
鈴の発言に、驚いて彼女を見返す小毬だが、鈴は至極当たり前のように、
「なんとかして、くるがやと理樹が付き合っても世界が終わらないようにすれば問題なしだろ。」
「う、うん…でも…いいの?」
鈴の真意を測りかね、確認するように訊ねる小毬。
「ん?あたしも理樹が好きだからか?」
「は、はっきり言っちゃうんだ…、うん、だから…、」
「…えーっと、この世界で理樹とくるがやが付き合うと、二人がうれしいし、理樹が喜ぶとあたしもうれしい。幸せスパイラル、たしかこまりちゃんが言ってたことじゃないか?」
「あ…、」
それを聞いた小毬、しばらく唖然としていたかと思うと、急に満面の笑みを浮かべて、
「そ、そうだよね〜。ごめんりんちゃん、自分の持論ってことに気づかなかったよ〜。」
「わ、分かったからいちいち頭をぐりぐりするなっ!」
ぐりぐりどころか、わしゃわしゃと頭を撫でられた鈴、照れくさいのと鬱陶しいので反射的に転がって小毬の手から逃れる。
「と、とにかく…、どうすればいいのか、それを考えよう…。」
「そ、そうだね。…うーん、とはいえ、この世界のルールでそうなっている以上難しいなあ…。」
手元のノートをめくりながら、ため息をつく小毬。ふと、それを見た鈴が、
「ん、こまりちゃん。そのノートは?」
「ん、ああこれね〜。これは魔女としての私が持っている魔法の品物で、虚構世界のことならすべて書かれているんだよ〜。」
通常なら正気を疑われそうな発言だが、鈴は全く疑う素振りはない。
「それはくちゃくちゃすごいな。…でも、誰が書いているんだ?」
「私。」
「こまりちゃんが?」
「うん。だから私が見聞きしたものは全部本当のことが書いてあるんだよ。」
「ふーん…、まてよ、そうすると…。」
鈴、何か思いついたのかしばらくぶつぶつ呟いたかと思うと、
「だったら、このノートにそういうこと書いてしまえばいいんじゃないか?」
そのアイデアに、小毬は困ったように笑い、
「うーん、私もそう思ったことあるんだけどね、このノート本当に起こったことじゃないと書けないんだよ。」
そういって、ペンを取り出しノートになにやら記入したものの、文字どころか染みすら現れない。
「本当だ…こまりちゃんペン貸して。…うーん、別にインクがないってわけでもないし…。」
小毬のペンを借りて、手の甲に線を引いてみて普通のペンだと確認する鈴。考え込みながら何の気なしにノートにペンを走らすと。
“今日はゆきじゃなくておかしがふった。”
瞬間、バラバラと校舎になにやら硬いものがぶつかる音が響き渡り、大騒音となる。慌てて外を見た二人は、空から猛スピードで落下し、校庭に積もっていく大量の菓子を見た。
「…え、りんちゃん凄い!りんちゃんなら書けるんだ!」
驚くと同時に、鈴はかつて理樹とともに、小毬たちではどうしても抜けられなかった、2人以外全員爆死という運命を打ち破ったことを思い出す。
「…りんちゃん、やってみようよ。りんちゃんの思ったとおりに出来るかもしれない!」
そう言って、鈴に改めてペンを手渡す。鈴はちりん、と頷いて再びノートに向かう。
「とりあえず、本当にお菓子が降ったらくちゃくちゃ大変になりそうだってのは分かったから、コレは消しておこう…。」
言いつつ、先ほどの一文に二重線を引いて抹消すると、外で響いていた騒音がぴたりと治まる。その効果を確認すると、鈴はその下の行に書き始めた。
“こうていのさくらがまんかいになった”“部室がモンペチでいっぱいで、あふれそうだ”“ドルジが20kgやせた”
「あははー、たしかにそういうのも楽しそうだけど、今回はゆいちゃんのこと書いてあげようよ〜。」
「む…ゴメン。」
思わず自分の願望を書いてしまった鈴。小毬に窘められ、それらをすべて二重線で消すと、ふたたび書き始める。
“くるがやはりきのことおぼえている”
その瞬間、鏡の向こうで劇的な変化が起きた。俯いてキーボードを叩いていた唯湖が、急に顔を上げたかと思うと、自身の手帳を確認して頷く。その時、鏡の向こうでドアが開いて、小柄な少年が入ってくる。そして唯湖もその少年―――理樹―――のほうを振り向き、あわただしく立ち上がり駆け寄っていく。
『…!』
そのときの理樹の表情は、小毬と鈴にとっては忘れられないものとなった、
「…理樹くん、あんな喜んで…。」
「…うん。あんな理樹見られたんなら、なんかここに閉じこめられたのも悪くなかったな。」
「そうだね…。…さ、最後の一言だよ!」
「うん!」
ちりん、と鈴の音を響かせて頷いた鈴、先ほどの一行下にさらに書き加える。
“このせかいはずっとつづいていく”

『!』
最後の文字を記した瞬間、鏡のこちら側が光に包まれる、と同時に靄がかかったようにその光の中に溶け込んでいくことに気づく二人。
「な、なんだ!?」
「いけない、向こうの世界が、本当の世界になったから、こちら側は必要なくなっちゃうんだ!」
「大変だ!どこからだっしゅつすればいいんだ?」
「…こ、ここと向こうは鏡でつながってるから、多分大きな鏡のあるところからなら…。」
「えっと…体育館!」
「うん!」
すばやいやり取りの後、お互い同時に頷くと揃って走り出す。まるで光に浸食されていくような光景の中、手を取り合って掛けていく二人。
「わ、わわっ!?」
「こまりちゃん!」
「だ、大丈夫、ゴメンね〜。」
足元がおぼつかなくなった小毬を鈴が支えつつ、どうにか体育館にたどり着く。そして巨大な鏡の前に立つと、
「…行くぞ!」
「うん!」
意を決して、もし激突したら大怪我ではすまないほどの勢いで鏡に突進する。鏡に激突した、と思ったその瞬間、鏡面がぐにゃりと曲がり、何事もないように二人を飲み込んでいった。


Intermission An addition new words


「お帰りなさいませ。神北さん、棗さん。」
一瞬意識を失っていた小毬と鈴が、その声に出迎えられ意識を取り戻す。
「…あ、みおちゃん。もう終わらせたんだ。」
「はい、宮沢さんもどうやら戻ってきたようです。」
「そっか、でもみおちゃんが一番か〜。さすがだね〜。」
「恐れ入ります。…しかし、あとのお三方もご無事で戻ってくればよいのですが…。」
と、美魚が呟くと、鈴が意味深に頷いて、
「クドとはるかとくるがやだったら、大丈夫だ、うん、きっとくちゃくちゃ大丈夫だ。」
と、無意味に断言して胸をはると、肩に乗っている猫も威勢よく一言声を上げる、
「ほら、マイルスもこういってるぞ。」
「わ、この子もついてきたんだ。」
いくら鈴にくっついてきたとはいえ、向こうの世界のものが何事もなくこちらに出てきたことを奇異に感じるが、そんなこともあるのだろうと割り切る小毬。
「うん、なんだかしらんが、こいつあたしにやたらくっついて…くっ…っ…ふかーっ!!」
喋っているうちに、鈴の頭を乗り越えて顔面に張り付いていたマイルスが、鈴の一喝で振り落とされる。
「どうも、棗さんのお顔は居心地がいいのでしょうか、この前もやけに張り付かれていましたよね。」
「うっさいみお…!…でもホントに居心地がいいのかあたしの顔?…おいマイルスなんとかいえ。」
「にゃー。」
「あはは、いいって言ってるよー。」
「むー…。」
そう唸りつつ、猫とにらめっこを始めてしまう鈴を見て、小毬と美魚の顔も自然に綻んでいく。
「…そうですね、心配は心配ですが、あの方々なら大丈夫と信じましょう。」
「うん、そうだね〜。りんちゃんとマイルスくんのおかげで緊張感が取れたしね。」
「ええ、いい意味でリラックスできました、お茶でも飲みながら待つことにしましょう。良い葉を能美さんから頂いていたんです。」
「うん、それじゃお茶菓子持って来るね〜。」
と、猫と戯れる鈴を置いて、美魚と小毬はそれぞれ茶葉と菓子を取りに談話室を出て行く。その時、瞬間的に全員の目が離れたテーブルの上で、ノートがひとりでに開くと、あるページを開いて止まる。そこには、このような一文が記されていた。

“まおうは、いつのまにかこどもたちといっしょにとじこめられていました。そこで、こびとたちがたすけにきたときに、いっしょにこっそりでていくことにしたのです”

to be continued


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なかがき
なんか変な勢いで始まってしまいました。既に虚構世界を知っていること前提で進んでいく新メンバーとか、既に時空を操るまでの“魔女”設定(元ネタは別のゲーム…)となってしまった一部メンバーとか。作者カンペキに遊んでいます。でもいいのです、作者が書いてて楽しいのでw 
さて、次回では残りのメンバーがそれぞれの世界で暴れ周り、ここでは仄めかすだけだったラスボスの姿も見せる予定…であります。ちょうどEXやってるときでもあるし、長くなるかもしれません…というより、確実に次が出来るまで長くなりそうですが、気長にまっていただければ幸いです。
それでは、今回はこれにて。
BTL

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